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【刻読7冊目】『豊田章男が愛したテストドライバー』世界のトヨタに影響を与えた人物

トヨタ自動車社長、豊田章男氏の師匠「成瀬弘氏」という人物とその教え

 


1963年にトヨタ自動車に入社しメカニックを経てテストドライバーとしてクルマの開発現場に立ち続けた「成瀬弘氏」。トヨタ創業社の孫「豊田章男氏」の運転技術の師匠。成瀬弘氏がどんな人でどんな考えを持っていたのかを多く資料を元に丁寧に書かれています。また豊田章男氏のとの出会い、運転訓練、レース活動。豊田氏の成瀬氏に対する思いなど、二人の師弟関係が書かれた一冊です。

本を読んだきっかけ

トヨタ自動車社長の豊田章男氏の役員報酬が世界の自動車メーカー社長より安いという記事をネットで読んで豊田章男氏の名前が頭に残っていました。その時に本屋で見かけて購入しました。

 

本の紹介

タイトル:豊田章男が愛したテストドライバー
著者:稲泉連
出版:株式会社小学館
初版:2021年4月11日
※単行本が2016年3月発売その文庫版

 

【本の構成】

・第一章 運転の氏
・第二章 幻の第七技術部
・第三章 聖地ニュルブルグリンクへ
・第四章 社長育成
・第五章 幸福な時間
・第六章 弔辞

 

テストドライバーという仕事について

テストドライバーとはアクセル、ブレーキ、ハンドリングといった様々な評価基準をもとに、走行テストを繰り返してクルマの開発に反映させる技術者のことである。近年の自動車開発ではあらゆる性能がコンピュータによって数値化されるが、「乗り心地」や「走りの気持ち良さ」には人にしか表現できない聖域がある。

テストドライバーの仕事は新型車などを実際に運転して走行テストを行い、開発にフィードバックする仕事です。「乗り心地」や「気持ちよさ」などの人間の感覚的な部分は実際にヒトが乗って確かめるしかないため、自動車開発にはなくてはならない役割です。

トヨタのテストドライバーは資格制度になっていて、成瀬弘氏は「トップガン」と呼ばれる資格制度の頂点、最終試験を担当するテストドライバーでした。

自分はテストドライバーの職業をあまり理解していませんでした。レースを観るのが好きなので漠然と「レースで使用する車を運転してテスト」をする職業と思っていました。この本を読んで初めて自動車メーカー内で車の開発に携わるテストドライバーがいることを初めて知りました。(考えてみれば当たり前ですが。。)
また自動車の開発が機械化されていく中で人間の感性の部分を開発に反映していく重要な役割であるということを知りました。

 

自動車メーカーが目指すべき「クルマつくり」とは

成瀬氏は自動車メーカーが目指すべきクルマ作りをこう語っています。

クルマというのは、本当は乗ったら楽しいんだ、気持ちいいんだよ。機械は一年ごとに進化するし、変化もする。でも、乗る側の人間はぜんぜん進化しないだろう?その人間の感性に合ったクルマを本当はつくらないといけないんだ。


自分もたまにクルマを運転します。しかし乗ったら楽しいとか気持ちいいなど考えたことがありませんでした。例えばクルマを購入するとしたら、値段、乗れる人数、エコ、低燃費、自動運転などいわゆる「機能」というところに目が行きがちです。
しかし「乗ったら楽しい」「気持ちよく走れる」という感覚的なことは多くの人が分からないからこそ実は重要です。例えば家などは少し傾いているだけで体調を崩してしまうと言われています。クルマも同じようにどんなに機能が優れていても「乗りづらい」、「疲れてしまう」というクルマは良いクルマと言えません。

 

成瀬氏の師匠としての教え

成瀬氏は豊田氏に運転技術を教え、一緒にレース活動に取り組みました。
豊田氏に運転を教えた理由をこう言っています。

「ただ売って儲かればいいというのではなく、自分で乗ってその気持ち良さが分かる評価ドライバーになってほしかったんですよ」 

自動車メーカーが目指すべき気持ちの良いクルマを自分でわかるようになるために必要なことでした。
こちらもかかれていタコとですが、欧州の自動車メーカーの役員クラスは高い運転技術を持ちクルマを評価することが当たり前とのことです。豊田章男氏がレースで走るというのに驚きましたが、世界の自動車メーカーには当たり前に役員が運転をして評価をするのが当たり前の企業があるというのに驚きました。

開発現場というのは前線の社員が開発をして、重役は報告を聞き決済するだけという印象でした。しかし違う企業もあるのだということを知りました。

また成瀬氏は豊田氏とともにニュルブルクリンクで行われる24時間レース参加することになります。

「レースは何度もやってくる逆境を、チームが一丸となって乗り越えていくことの繰り返しだ」 

逆境は人を育てると言いますが、次々と起こる問題に対し、限られた時間の中でその場で解決策を考え実行していくのは、ヒトを鍛える最適な環境なのだと思います。
そしてニュルブルクリンク

ニュルブルクリンクで車を鍛えたらどんなところでも走れる」

と言われるくらいクルマを鍛えるのに的した場所です。ニュルブルクリンクで開催される24時間レースに参加することはヒトとクルマを鍛えるのに最適な舞台ということが分かります。

 その環境を豊田氏に体感させることがゆくゆくはトヨタ自動車の未来につながると考えたのだと思います。

最後に

世界のトヨタ自動車の創業者の孫が1人のテストドライバーに師事することによってクルマ作りの本質、クルマを鍛える、人を鍛えるということを学ぶという物語のような話です。そしてそれが実話ということにすごく驚きました。
豊田氏が社長になる前のトヨタ自動車は販売台数主義に陥り、また機械技術の発達によって人の感性に沿ってクルマを作るということを忘れていたようです。長年トヨタ自動車に勤め開発に携わったきた成瀬氏だからこそのトヨタ自動車に対する思いが豊田氏に受け継がれたのだと感じます。

この本を読むまでは20代で師匠と呼べる人に出会い、教えを受けることが大成するのには重要だと感じていました。しかし豊田氏が成瀬氏に出会ったのが40歳ごろ。
「いつ師匠に出会うかは分からない」ということを学びました。
いつ師匠に出会っても良いように